マハーバーラタ ナラ王の冒険 2014 Avignon版 

概要
2014年7月、フランスアヴィニヨン演劇祭2014の公式招待作品
「MAHABHARATA - NALACHARITAM マハーバーラタ ナラ王の冒険」(宮城聰演出)のためにブルボン石切り場にて、リング状の特設舞台による空間構成をデザインした。
パリ版「マハーバーラタ」
「マハーバーラタ」の空間構成は、これまで国立博物館の地下室や森の中の野外劇場などの特異な空間で行い、超越的な存在(神話的人物像)の登場する劇空間をいかに構築するかが最大の焦点であった。

2006年パリ ケ・ブランリー美術館内のレヴィ・ストロース劇場(ジャン・ヌーベル設計)での上演では、すり鉢型の劇場、つまり舞台を見下ろす客席の空間の中で、
「どのような劇空間をデザインすれば、観客が神である出演者を見上げる視線(意識)を作れるか?」
という点を追求した。
その「見上げる視線」を生み出すために、舞台の上にいる登場人物と、舞台の下から登場人物を見上げる演奏者たち、という構図を作った。

これには、演奏者の視線が観客の意識に刷り込まれることで、観客にとっても舞台が頭上に浮かんでいるように錯覚させる効果があった。
これは日本の祭でみられる「神輿」を視る者が、その担ぎ手と同化し、自分も聖なる神輿を担いでいるような高揚感を感じる心理状態になることとよく似ている。
敷地
しかし、今回アヴィニヨン版マハーバーラタを上演する「敷地」は、20m以上の高さの絶壁に囲まれた巨大な石切り場の廃墟である。
「石切場」はアヴィニヨン市内から15Km離れたブルボンの丘陵にある。1985年、演出家ピーター・ブルックがはじめてこの場所を探し当て、インドの壮大な叙事詩「マハーバーラタ」が一晩かけて上演された。アヴィニヨン演劇祭において伝説となった上演場所である。
アヴィニヨン版の模索
観る者を寄せ付けない圧倒的なスケールを持つ、この荒涼とした空間では、パリ版と同じサイズの舞台ではあまりに小さく、ちっぽけにみえてしまい、「神輿」の原理は全く通用しないことが明白であった。

そこで、観客が出演者を「見上げる」構造を物理的に作るため、観客席をかぎりなく低く、大地に沿う様に設け、観客が客席を見上げさせる構図を考えた。 【左 スケッチ】

最大の難題は、下から仰ぎ見る舞台には奥行きというものが存在しないことだった。舞台の奥に立つ俳優は観客の視線から外れてしまうためだ。

プロセニアムアーチを持った西洋の劇場空間では、奥行の向こうに無限や永遠があるという空間概念が支配的である。透視図法(パースペクティブ)はその概念を最も効果的に表現する手法である。
2013年「光のない。」(Elfriede Jelinek作 原題 Kein Light  演出 三浦基) の空間構成では、舞台正面の奥に光と闇を映し出す「窓」を、このパースペクティブを用いて表現した。 【中 光のない。】

アヴィニヨン版マハーバーラタの空間構成では、むしろ奥行きの無い事を逆手に取り、最大限に活かす事を考えた。そこで演出家の宮城氏に提案したのがリング状舞台というアイディアである。【右 スケッチ】
アヴィニヨン版マハーバーラタ
奥行きの無い廊下の様な舞台が石切場の絶壁に沿って湾曲し、そのまま一周してリングになっている。リングの高さはおよそ3メートルに設定され、そこに立つ俳優を客席から見上げると、あたかも巨大な岩壁を身にまとった様なスケール感が俳優の身体に付与される。
岩壁に映る絵巻
水平に展開する舞台空間は平安朝の絵巻物のようでもあり、岩壁を背景に浮かび上がる神話の登場人物はラスコー洞窟の壁画を想起させる。
円環をなす世界
リング状舞台により、石切り場の空間と対峙するのではなく、空間の力を最大限に生かしながら神話の世界観を作り出すことに成功した。
リングは永遠に続く循環を象徴しており、東洋的な輪廻、生命の連鎖を祝福する宇宙観を表している。巨大な石切場の壁面に囲われた空間の中で、リングは天空に開かれた窓となる。
Language
ENGILISH version is below
http://kiz-architect.com/en/works/mahabharata-en/

Project|マハーバーラタ ナラ王の冒険 2014 Avignon版 
TYPE|アヴィニヨン演劇祭2014 公式招待作品 空間構成
LOCATION|Avignon, France
YEAR|July, 2014
CAPACITY|1,000人
LOCATION|ブルボン 石切場
演 出|宮城聰
PHOTO|☆のついているもの 新良太

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