奥州安達原

concept | コンセプト
「遠さ」を紡(つむ)ぐ糸の劇場

学校の体育館に、『奥州安達原』という演劇公演のための劇場空間を創出した。バスケットゴールが並ぶ「見慣れた空間」に、「安達原」という異界をいかにして生み出すかが課題となった。

およそ5,000立方メートルの空間をのべ15,000メートルの「糸」によって覆いつくし、舞台と客席を包み込んだ。体育館の架構から吊られた1000本近い糸の全てに錘(おもり)を吊るし、その一つ一つにかかる重力が、V字形にぴんと張った糸によって視覚化され、空間に静かな緊張感が漲る。

糸は安達原に棲む鬼女の操る糸車から繰り出され、迷い込んだ旅人を絡めとる霞網の様であり、その重なり合う様は、遥かなに連なる山々の稜線にも見て取れる。或いは、母親の胎内のように優しく包み込む繭にも似ている。その解釈は観客に委ねられている。
古来蝦夷と呼ばれた異境の世界観を創出するために、体育館を透かして見せる糸と糸の隙間に、その「遠さ」が紡ぎ出されれることを意図した。
detail | 詳細
天井から2点で吊るした糸(綿ロープ)に仮設足場用のクランプを吊るしてV形に張り、100mmピッチで平行に重ねていく。調達が容易で再利用が可能な部材を選択した。


観客は、糸の列に導かれるように、広い会場を巡って客席にたどり着く。織物のような糸の造形が、重力のみによって形成されたものであることが、浮遊するクランプの列によって感覚的に理解される。

Project|奥州安達原
TYPE|『奥州安達原』上演のための仮設劇場
LOCATION|東京都渋谷区 文化学園体育館
YEAR|2007年
上 演|ク・ナウカ シアターカンパニー
演 出|宮城聰

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